壮年期 <ライフのバランシング・マシン>  昭和45年

ホンダは四輪車企業として、さらなる発展をはかるべく、軽自動車「ライフ」の生産を計画していた。
「ホンダ1300」でのバランシング・マシンの取り組みから、この計画にも私のところに仕事がきた。ところが、
今度のクランクシャフトは、2気筒であり4気筒のクランクシャフトとは違った難しさがあった。
私は、この話の噂の時点から、密かに?調べをはじめていた。

2気筒のクランクシャフトは、クランクシャフト単体では、大きなアンバランスを持っているのだ。4気筒のように
バランスをとればよいというものではなかった。コンロットと組み合わさって、初めてバランスがとれるように、クラ
ンクシャフトのピン部にある重量の錘りをつけた状態でバランスをとらねければならないことがわかった。

しかし、クランクシャフトにいちいち錘り(ダミーウエイト)をつけていたのでは、量産性が極めて悪い。そこで考え
たのが、バランス測定器での工夫である。この錘りである、ダミーウエイトをバランス測定器に取り付けて、バラ
ンスを測定するのである。そうすれば、クランクシャフトに個々にダミーウエイトを取り付ける必要はなく量産性が
大幅に向上する。

こうして、バランス測定器は、バランスメーカーの長浜製作所を主体として開発することとなった。特許は、共同
出願とした。
ホンダ1300のテツを踏まないようにセンターリング工程は、センターリングの位置を手動で変えられるように配
慮した。つまり、定期的に旋削工程が完了したワークのバランスを計って、センターリング工程にデータを手作業
でフィードバックしたのである。センターリング工程の加工基準にシムをかったりする原始的な方法ではあったが・・

ところがである、ドリル修正機はホンダにて完了していたにもかかわらず、バランス測定器がうまくいかないのであ
る。測定値がばらつく、原因が中々わからなかった。そんなことから、ライフの立ち上がりの生産には間に合わず、
立ち上がり当初は、ダミーウエイトを作業者が個々にクランクシャフトに取り付けてバランス測定するという、人海
戦術に頼らざるを得なかった。

ライフのエンジンは、和光製作所で生産された、また、バランス測定器を担当した長浜製作所は大阪市であった。
ここで、長浜製作所だけに任せておくことができず、長期滞在で島根技師が派遣されることになった。
そうして、色々な状況がわかってきた。バランス測定器を起動、回転させて30分も経つと測定値が安定すること、
朝の起動時には、前日の測定値と異なった値になっていること。その変化している値も一定した値で安定している
こと、など。このような状況から、色々と検討がなされ、原因が判明した。

原因は、ベアリングのグリスであった。
ワークの回転装置には、ベアリングが使われていて、それに潤滑のためのグリスがついている、装置を長時間停止
していると、このグリスが自重で下の方に垂れ下がってきてまとまってくる。回転させると、グリスが円周上に満遍なく行き渡る。
このグリスの重みがバランスの値に影響していたのである。この原因をみつけるのに何ヶ月も費やしたのである。
わかってみれば、単純なことなのであるが・・ そこで、ベアリングへのグリスは、注射器で極小量注入して、問題は
解決をみた。これが、技術というものか?

こうして、「ライフのバランシングマシン」は、生産に寄与することができた。そして、この経験は、今後の設備計画に
大いに役立ったのである。

続く   マスセンターリングマシンへ

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