壮年期 <5grcm バランス> 昭和51年 

より快適な車造りを求めて、研究所から投げかけがあった。
乗用車のアコードにクランクシャフトのバランス許容値を”5grcm”にできないか?そして、できるとしたら
コストがどのくらい高くなるかを教えてもらいたい、というものだった。

今までの許容値は、20grcmであるから、4倍に精度を上げるということであった。アコードのエンジンは
和光製作所で製造していたから、その工場長が、その話を聞いて即座に反論した。そんな無茶な数字は
受け入れられない、と。確かに、工場長という立場になればわかることではある。これを受け入れれば、製造の
全責任を持つことになるのであるから。

研究所の担当者は、第一設計の桜井さんだった。彼らのテスト結果からすると、クランクシャフトのバランス
を良くすると、車全体の振動レベルがワンランク上がるというのだ。少々のコストアップならやりたい、という
意気込みが感じられた。

私のところに、その仕事が廻ってきた。私が、検討をしたところ、測定工程、修正工程を各々もう一行程追加
すればできることがわかった。修正ドリルも細いものを使い、20grcmから5grcmに精密修正する、ということ
が条件であった。新規投資も数千万円であった。
その結果を工場側、研究所側に説明をした、研究所は、それくらいのコストアップなら是非やりたい、といって
きた。工場側は難色をしめした、しかし、反論する技術的根拠がなく、結局、私の提案通りに実施することに
なった。

こうして、ホンダのクランクシャフトのバランスは、許容値5grcmが定着した。
私個人的な意見としては、クランクシャフトのバランスを5grcmにバランスを良くしたところで、車の振動レベルが
ワンランク上がるとは到底考えられないが、研究所のデータがものを言っているので、反論のしようもなかったし、
自分を売り込む絶好の場面でもあったので、黙して語らずであった。今だから言えることである。

続く

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